NEXT STAGE

ソフトウェア開発、新たな段階へ


少し前のことになりますが、次のようなネットニュースを読みました。

「AIがメディアの速報性の鍵に? 新概念「拡張ニュースルーム」とは 」

Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

この記事は、今年6月に開催された「世界編集者フォーラム」なるもので注目された「拡張ニュースルーム(Augmented Newsroom)」 という新しいコンセプトを紹介したものです。

「拡張ニュースルーム(Augmented Newsroom)」 というのは、ニュース記事に関わるあらゆる業務・作業(企画、取材、作成、編集、発行、記事管理)などにおいて、AI技術を積極的に取り入れ、業務・作業の生産性を高め、記事の品質も高めよう、というもののようです。

Augmentedとは、この記事でもあるように、「拡張」あるいは「知能」と訳される単語です。すぐ思いが至るのは、Augmented RealityやAugmented Humanです。どちらも新しい表現というわけではなく、Wilipediaによれば、Augmented Realityは1990年から使われ始めており、2010年にはAugmented Humanの国際会議も始まっています。「現実環境に情報を付加・削除・強調・減衰させ、文字通り人間から見た現実世界を拡張する」とか、「人間の身体や精神を拡張する」という意味があるようです。ヒトやモノが本来持っている機能や能力を技術によって強化し、その活躍の場や可能性を広げる、という意味での「拡張」と言っても良いかもしれません。なお、拡張に用いる技術はAI技術に限られませんが、拡張ニュースルームというコンセプトにおいては、主にAI技術が念頭におかれているようです。

前置きが長くなりましたが、拡張ニュースルームにおける「ニュース記事に関わる」という部分を、「ソフトウェアに関わる」と置き換えてみることで、面白い議論が展開できるのでは、というのが私の考えです。実際、ソフトウェアの開発においては、いろいろな作業や場面においてAI技術を使おうという研究が、我々の研究室・研究グループを含め、世界中で始まっています。「ソフトウェアの自動デバッグ」などがその一例です。ですから、別に、新しい話でも何でもありません。が、AI技術をはじめとする最新技術をソフトウェア開発に活用しようとする研究開発が世界的にせっかく盛り上がっているのに、それらを総称する表現がありません。

そこで、この「Augmented」というバズワードを使い、これまでにない新しいソフトウェア開発を「拡張ソフトウェア開発(Augmented Software Development)」と名付けてはどうかと考えます。名前をつけたからといって技術開発が進むわけではありませんが、IoTにしても何にしても、名前が大事、という面はあります。

EASEが目指すところも、従来のソフトウェア開発の枠には収まらず、この「拡張ソフトウェア開発」になるのではないかと考えています。

Author
小山正樹 松本 健一

奈良先端科学技術大学院大学
先端科学技術研究科
情報科学領域 教授



人工知能(AI)の進化とこれからの展望

最近、人工知能、英語でAI(Artificial Intelligence)という言葉がマスコミでよく取り上げられている。

AIには、機械学習(Machine Learning)、強化学習(Reinforcement Learning)および深層学習(Deep Learning)などの言葉が使われるが、いずれも学習という言葉がキーワードである。

このAIの応用としては、ロボット、車の自動運転、さらに各種のゲームが取り上げられることが多い。特に、一昨年、昨年と囲碁のプロ棋士にアルファ碁という名前の対局ロボットが勝ったことが大きな話題となった。今やどのプロ棋士も対局ロボットには勝てなくなったと言われている。

我々が「学習」と聞くと、当然、小、中、高校、さらに大学での勉強を思いだす。しかし、現在のAIはこのような順序立てた学習は大変苦手で結果のみを示すものがほとんどである。その理由は今のAIは人間の脳内のニューロンをまねた非常に多数のノードからできており、これらが連携して動作をするために、その動作の解析がほとんどできず、結果のみ、すなわち理由なくして答えのみ提示するからである。この動作はある意味で人間的であり、我々もその理由がわからないままに行動することが多々あると言える。

今までのAIはある特定の目的のためのAIである。自動運転とかゲームなどが先行しているが、あと2,30年の内にはあらゆる分野に広がる汎用的なAIになると言われている。2045年の時点には、「全人類の知性の総和を越える」、すなわち、これをシンギュラリティ(singurarity)と呼ぶ本も登場し、話題になっている。

この時点になると、ほとんどの生産活動とか、運搬などがロボットにとって代わられ、人間は古代ギリシャ時代の貴族のように、趣味とか知的活動だけすればよい。そのためには、現在の社会保障をさらに進めて、全国民に高度な最低限所得保障(Advanced Basic Income)を提供すべきであるという経済学者も現れている。

今までのAIは、それ自身の学習が目的のものであった。自動運転とかゲームなどであるが、これからのAIは人間の学習を助けるAI、すなわち、学習支援ロボットが出現してもおかしくない。特に人間の学習で目的とか定義がはっきりしているものの支援には大変役に立つと思われる。学校教育における、数学、物理などは好例になろう。スポーツや、子供の囲碁の学習にも適用できるとよいが、これはなかなか難しそうだがやってみたい分野ではある。

EASEの目的であるソフトウェア工学の分野においても今後、AIの適用を検討していく必要があろう。はたしてどんな進め方とかポートフォリオを作成するのがよいのだろうか。

Author
小山正樹 小山 正樹

奈良先端科学技術大学院大学
名誉教授